なぜ今、郡上市で「柔軟な働き方」が必要なのか?

郡上市の「働きたい人」と「雇いたい人」のギャップ

郡上市内の事業者の皆様の多くが人手不足に直面しています。その大きな原因の一つが、事業者側が求める働き方と、市民が希望する働き方との間にある「ミスマッチ」です。この現状をデータでご覧ください。

市内事業者の 86% が人手不足を実感

(令和7年3月 郡上市産業支援センター調査)

💼 事業者側が求める働き方

安定した業務運営のため、「フルタイム」人材を求める声が多数を占めています。

  • 「正社員・フルタイム」を主に求めている
  • 週30時間未満の勤務に対応できる: 6%
  • フルタイムを求めている: 66%

👩‍💻 市民側が希望する働き方

子育てや介護と両立可能な、「柔軟な働き方」への需要が非常に高いことがわかります。

  • 週30時間未満を希望: 51%
  • フルタイムを希望: 12%
  • その他 : 37%

この「安定フルタイム」を求める事業者と、「柔軟な短時間勤務」を求める市民とのギャップこそが、人手不足の大きな原因です。

「柔軟な働き方」は未来への投資

「管理が大変そう」という懸念は誤解です。柔軟な働き方は、人手不足を乗り越え、会社を成長させるための重要な「経営戦略」です。

📈

① 人手不足の解消と採用力向上

「週3日OK」「1日4時間から」等の選択肢で、これまで応募できなかった意欲ある層にアプローチできます。「働きやすさ」が最大の魅力となり、採用競争力が向上します。

🤝

② 従業員満足度と離職率の低下

出産や介護など、ライフステージの変化を理由とした離職を防ぎます。「働き続けられる」安心感が従業員の満足度を高め、採用・教育コストの大幅な削減につながります。

💡

③ 多様な視点とイノベーション

多様な背景を持つ人材の「生活者としての視点」が、新商品開発やサービス改善のヒントになります。また、業務の「属人化」が見直され、組織全体の生産性が向上します。

柔軟な働き方 導入ガイド

何から手をつければ良いか分からない、という方へ。ここから始める具体的なステップと、多様な働き方の選択肢をご紹介します。

ステップ1:仕事の「見える化」と「細分化」

最初の、そして最も重要な一歩が、「属人化(その人にしかできない仕事)」をなくすことです。業務が属人化していると、担当者が休んだ際に業務が止まるリスクがあり、柔軟な人員配置もできません。

業務を分解する3ステップ

  1. 業務を書き出す: 担当者が「普段どんな業務を」「どんな順番で」行っているかを書き出します。(例:「請求書発行」「在庫管理」)
  2. さらに細かく分解する: 「請求書発行」なら、「1. 締め日確認 2. データ抽出 3. フォーマット入力 4. 内容確認 5. 印刷・押印 6. 郵送」のように、作業工程に分解します。
  3. 簡単なマニュアルを作る: 「〇〇のフォルダの△△を開く」といった箇条書きや、画面のスクリーンショットで、担当者以外でも作業できる手順書を作ります。

効果:ワークシェアリングの土台が完成

分解すると、「5. 印刷・押印」「6. 郵送」といった単純作業が見つかります。これらを「午前中だけ働きたい人」にお願いするなど、柔軟な人員配置(ワークシェアリング)が可能になります。

ステップ2:多様な働き方の選択肢

業務の見える化ができたら、自社に合った制度を選びましょう。

選択肢概要導入のポイント
ワークシェアリング一人の業務を複数人で分担(例:午前と午後で担当を分ける)。情報共有(進捗)のルール化。最終責任者の明確化。
外注・アウトソーシング経理、Web更新など専門業務を社外のプロに委託。秘密保持契約(NDA)の締結。社内ノウハウの確保。
ジョブ型雇用「仕事内容」を明確に定義し、そのスキルを持つ人材を採用。職務記述書(JD)の作成。成果に基づく公正な評価基準。
その他時短勤務、テレワーク(在宅勤務)、フレックスタイム制など。自社の業務内容に合わせて組み合わせる。

ステップ3:成功に導く「導入4ステップ」

思いつきで始めず、着実なステップで社内に定着させましょう。

  • 1

    現状分析

    「なぜ変えるのか」目的を明確に。業務の見える化、従業員アンケートなどで課題とニーズを把握します。

  • 2

    制度設計

    自社の課題に合った制度(対象者、労働時間、給与、評価)のルールを決め、必要なら就業規則も変更します。

  • 3

    社内周知

    「なぜ導入するか」を全従業員に丁寧に説明し、不公平感が出ないよう質疑応答の時間を設け「納得感」を醸成します。

  • 4

    試行と改善

    最初から完璧を目指さず、まずは特定の部署や期間で「スモールスタート」。フィードバックを集めて改善し、本格導入します。

活用できる支援制度(助成金・補助金)

コストが懸念で導入をためらう必要はありません。国や市には、企業の「働き方改革」を後押しする、返済不要の支援制度が多数用意されています。

生産性を向上させながら、労働時間の短縮や年休取得促進に取り組む事業主を支援します。
主な用途: 労務管理研修、就業規則の作成・変更(専門家への依頼費)、勤怠管理ソフトウェアや機器の導入など。

高齢者、母子・父子家庭の親など、就職が困難な方(=柔軟な働き方を求める層)をハローワーク等の紹介で継続雇用する事業主を支援します。
ポイント:: パートタイムのような短時間労働者でも対象となる場合があります。

  • 中小企業人材スキルアップ支援事業補助金: 従業員の資格や免許の取得(受講料など)を経費の一部として補助。
  • 新規学卒者等雇用促進奨励金: 若者などを新たに正規雇用した事業者への奨励金。

一人で悩まず、専門家の力を借りてください。

  • ハローワーク郡上(岐阜八幡公共職業安定所)
  • 郡上市産業支援センター
  • 郡上市商工会
  • 社会保険労務士(社労士)

※助成金・補助金は年度によって内容が変わる場合があります。必ず最新情報をご確認ください。

© 2025 このダッシュボードは、郡上市産業支援センターの調査資料に基づき作成しました。


より詳しく知りたい方は続きを御覧ください。

1-1. 郡上市の「働きたい人」と「雇いたい人」の間に横たわるギャップ

郡上市内の多くの事業者の皆さまが、「人手が足りない」という深刻な課題に直面しています。令和7年3月に郡上市産業支援センターが実施したアンケート調査では、市内の事業者のうち実に86%が人手不足を感じているという結果が出ています。 特に、安定した業務運営のために、多くの事業者が「正社員」や「フルタイム(週30~40時間)」で働ける人材を求めているのが現状です。

一方で、郡上市で仕事を探している市民、特に子育てや介護などを担う世代は、事業者側が想定している働き方とは異なるニーズを持っています。

市民へのアンケートでは、希望する雇用形態としてパート・アルバイトや短時間勤務が上位を占めました。 また、希望する週の労働時間については「30時間未満」を希望する人が51%と半数を超えており、事業者側が主に求めている「フルタイム」との間に大きな隔たりがあることがわかります。

さらに、市民からは在宅勤務やテレワークといった柔軟な働き方を望む声が26%あり、副業や空いた時間を活用した働き方に関心がある人も69%にのぼるなど、時間や場所に縛られない多様な働き方への需要が高まっています。

しかし、事業者側では短時間勤務に対応できる企業は43%、在宅勤務の導入に至ってはわずか3% にとどまっており、市民のニーズに十分に応えられていない状況が浮き彫りになりました。

このように、事業者側が求める「安定したフルタイム人材」と、市民側が求める「柔軟な短時間勤務」との間には、大きなギャップが存在します。

この”働き方のミスマッチ”こそが、人手不足の大きな原因の一つと考えられます。このギャップを理解し、解消への一歩を踏み出すことが、これからの人材確保、そして企業の持続的な成長の鍵となるのです。

1-2. 「柔軟な働き方」は、コストではなく”未来への投資”

「短時間勤務や在宅勤務を導入すると、管理が大変そう…」「既存の社員から不公平だという声が出ないだろうか…」

柔軟な働き方と聞くと、多くの経営者様がこのような懸念を抱かれるかもしれません。しかし、それは大きな誤解です。柔軟な働き方は、単なる福利厚生ではなく、人手不足という大きな課題を乗り越え、会社を未来へつなぐための重要な経営戦略なのです。

具体的に、どのようなメリットがあるのかを見ていきましょう。

メリット①:人手不足の解消と採用競争力の向上
これまで「フルタイム勤務」という条件でしか募集をかけていなかったとしたら、それは「フルタイムでは働けないけれど、意欲と能力のある人材」を無意識のうちに排除してしまっていることになります。

  • 眠っていた人材の掘り起こし
    郡上市内には、「子育て中で長時間は家を空けられない」「親の介護があり、決まった曜日に休みたい」「体力的にフルタイムは難しいが、長年の経験を活かしたい」といった様々な事情を抱えながらも、働く意欲のある方々がたくさんいます。「週3日勤務OK」「1日4時間から」「在宅での作業可能」といった選択肢を用意することで、これまで応募してこなかった層にアプローチでき、採用の門戸を大きく広げることができます。
  • 「働きやすさ」が最大の魅力に
    現代の求職者は、給与だけでなく「ワークライフバランス」を非常に重視します。柔軟な働き方を導入していることは、「従業員の生活を大切にする企業」という強力なメッセージとなり、求人市場における企業の競争力を高めます。

メリット②:従業員満足度の向上と離職率の低下
せっかく時間とコストをかけて育てた従業員が、出産や介護といったライフステージの変化を理由に辞めてしまうのは、企業にとって大きな損失です。

  • 「働き続けられる」安心感
    柔軟な働き方は、従業員が仕事とプライベートを両立させることを可能にします。家庭の事情に合わせて働き方を変えられるという安心感は、従業員のエンゲージメント(仕事への熱意や貢献意欲)を高め、「この会社で長く働きたい」という満足感につながります。
  • 採用・教育コストの削減
    離職率が低下すれば、新たな人材を採用し、一から教育するためにかかっていたコストを大幅に削減できます。その分のリソースを、既存の従業員のスキルアップや新たな事業投資に回すことが可能になります。

メリット③:多様な視点によるイノベーションの創出
同じような働き方をする人ばかりが集まる組織では、どうしても考え方が画一的になりがちです。多様な人材が活躍できる環境は、組織に新しい風を吹き込みます。

  • 新たなアイデアの源泉
    子育て中の親の視点が、新しい商品開発のヒントになるかもしれません。介護の経験を持つ従業員の気づきが、高齢者向けサービスの改善につながるかもしれません。多様な背景を持つ従業員それぞれの生活者としての視点が、思いもよらないイノベーションを生み出す土壌となります。
  • 業務改善のきっかけに
    仕事を複数の人でシェアしたり、在宅勤務を導入したりする過程で、これまで一人の従業員に依存していた「属人化」した業務が見直され、マニュアル化や効率化が進むことがよくあります。これは、組織全体の生産性向上にも直結します。

第2回:明日からできる!仕事の「見える化」と「細分化」

内容: 柔軟な働き方の第一歩として、業務の「属人化」を防ぎ、誰でも仕事を分担できる体制づくりの方法を具体的に解説します。

前回は、「柔軟な働き方」が人手不足の解消や企業の成長につながるというメリットをお伝えしました。しかし、「メリットは分かったけれど、何から手をつければいいのか…」と感じている方も多いのではないでしょうか。

柔軟な働き方を導入するための、非常に重要で、かつ明日からでも始められる第一歩。それが仕事の「見える化」と「細分化」です。

2-1. あなたの会社の仕事、その人にしかできませんか?(属人化のリスク)

「経理のことは、ベテランのAさんにしか分からない」 「あの機械の操作は、B君じゃないと無理だ」

あなたの会社に、このような「その人にしかできない仕事」はいくつあるでしょうか?特定の個人のスキルや経験に業務が依存している状態を「属人化(ぞくじんか)」と呼びます。これは多くの中小企業が抱える課題ですが、実は会社の未来にとって大きなリスクをはらんでいます。

リスク①:特定の従業員がいないと業務が止まる
もし、その担当者が急に病気で倒れたり、家庭の事情で退職してしまったらどうなるでしょうか。業務は完全にストップし、最悪の場合、お客様からの信用を失い、売上に直接的なダメージを与えかねません。これは、いつ起こるか分からない時限爆弾を抱えているのと同じ状態です。

リスク②:業務負担の偏りと不公平感
「できる人」に仕事が集中し、その人だけが常に忙しいという状況も生まれがちです。他の従業員は、その業務に手を出したくてもやり方が分からないため、手伝うことができません。この負担の偏りは、特定の従業員の疲弊を招くだけでなく、社内に不公平感を生み出し、チーム全体の士気を下げてしまう原因にもなります。

このような「属人化」の状態では、短時間勤務の人を新しく雇ったり、誰かが急に休んだ時に他のメンバーでカバーしたりすることが非常に難しくなります。

2-2. 仕事を分解して、チームで支える体制をつくる

では、どうすれば「属人化」を解消できるのでしょうか。その答えが、仕事を細かく「分解」し、誰でも分かるように「見える化」することです。難しく考える必要はありません。以下の3ステップで進めてみましょう。

STEP 1:業務を書き出す
まずは、担当者に「普段どんな業務を」「どんな順番で」行っているのかを、思いつくままに書き出してもらいます。「請求書発行」「在庫管理」「電話応対」といった大まかな項目で構いません。

STEP 2:一つの業務をさらに細かく分解する
次に、書き出した業務の一つを、さらに細かい作業工程に分解していきます。 例えば「請求書発行」という業務なら…

  • 取引先別の締め日を確認する
  • 販売管理ソフトから今月の売上データを抽出する
  • データを請求書フォーマットに入力する
  • 入力内容と元データに間違いがないか確認する
  • 印刷して、社印を押す
  • 封筒に入れて、郵送する

このように分解すると、一つの大きな仕事が、単純な作業の組み合わせであることが分かります。

STEP 3:簡単なマニュアル(手順書)を作る
分解した作業ごとに、簡単な手順書を作ります。立派なものである必要は全くありません。「〇〇のフォルダにある△△のファイルを開く」「このボタンをクリックする」といった箇条書きのメモや、パソコンの操作画面をスクリーンショットで撮って貼り付けるだけでも十分です。 目的は、「担当者以外の人でも、それを見れば最低限の作業ができる」状態にすることです。

「この仕事はあの人」から、「この業務はみんなで」へ

仕事の「見える化」と「細分化」が進むと、驚くほど多くのメリットが生まれます。

例えば、先ほどの「請求書発行」業務。分解してみると、「5. 印刷して、社印を押す」「6. 封筒に入れて、郵送する」といった作業は、専門的な知識がなくても誰にでもできそうです。

このように業務を整理することで、「午前中だけ働きたい人に、この部分の作業をお願いしよう」「Aさんが休みの時は、Bさんがこのマニュアルを見て対応しよう」といった柔軟な人員配置(ワークシェアリング)が可能になります。

一人のスーパーマンに頼るのではなく、チーム全体で仕事を支え合う体制へ。 その土台づくりこそが、多様な人材が活躍できる会社への第一歩となるのです。


第3回:多様な働き方の選択肢と導入のポイント

内容: 具体的な柔軟な働き方の種類を、メリット・デメリットと共に分かりやすく紹介します。

前回は、柔軟な働き方の第一歩として、仕事の「見える化」と「細分化」について解説しました。業務が整理できると、「この部分だけなら、他の人にも任せられるな」という仕事が見えてきたのではないでしょうか。

今回は、具体的にどのような「柔軟な働き方」の選択肢があるのか、それぞれのメリット・デメリットと合わせてご紹介します。「うちの会社なら、どれが合うだろう?」と考えながら、ぜひ読み進めてみてください。

3-1.【ワークシェアリング】”一人の仕事”を、”チームの仕事”に

一人の従業員が担当していた業務を、複数人で分担する働き方です。例えば、「1人分のフルタイムの仕事を、AさんとBさんの2人で午前と午後に分けて担当する」「経理チーム全体で、全員が全ての業務をカバーできるようにしておく」といった形が考えられます。

メリット:

  • 一人当たりの負担軽減: 業務負荷が分散され、残業の削減や従業員の心身の健康維持につながります。
  • 急な休みにも対応可能: 担当者が一人ではないため、子育て中の従業員が子どもの急な発熱で休んだり、介護で半日だけ抜けたりする場合でも、他のメンバーで業務をカバーしやすくなります。

導入のポイント(デメリット対策):

  • 情報共有の徹底: 「誰がどこまで進めたか」が分からない、という事態を防ぐため、簡単な日報やチャットツール、共有カレンダーなどを活用し、業務の進捗状況をチーム内で常に共有するルール作りが不可欠です。
  • 責任の所在の明確化: 複数人で担当する場合でも、その業務全体の最終的な責任者を決めておくことで、品質の維持やトラブル時の迅速な対応が可能になります。

3-2.【外注・アウトソーシング】”餅は餅屋”に。社外の力を賢く使う

経理、給与計算、Webサイトの更新、SNSの運用といった、専門知識が必要な業務や、毎日発生するわけではない業務を、社外の専門家や企業に委託する方法です。

メリット:

  • 専門性の高い業務を委託: 社内に専門知識を持つ人材がいなくても、プロの力を活用できます。
  • コスト削減とコア業務への集中: 専門スキルを持つ社員を一人採用する人件費と比べ、必要な業務を必要な分だけ委託する方がコストを抑えられる場合があります。また、社員は本来やるべき主要な業務(コア業務)に集中でき、会社全体の生産性が向上します。

導入のポイント(デメリット対策):

  • 社内ノウハウの確保: 業務を丸投げにすると、社内にノウハウが全く蓄積されません。定期的な報告会を設けたり、作業マニュアルを提出してもらったりするなど、委託先と連携して業務内容を社内でも把握しておく工夫が重要です。
  • 情報漏洩リスクへの備え: 会社の機密情報などを扱う場合は、必ず契約時に「秘密保持契約(NDA)」を結びましょう。

3-3.【ジョブ型雇用】”この仕事”のプロを確保する

従来の「会社に人を合わせる(メンバーシップ型)」のではなく、「仕事内容に人を合わせる」のがジョブ型雇用です。あらかじめ「あなたにお願いしたい仕事は、この範囲です」と職務内容を明確に定義して、その業務を遂行できる専門スキルを持った人材を採用する方法です。

メリット:

  • 専門スキルを持つ人材の獲得: 「ECサイトの運営責任者」「新商品の開発リーダー」など、会社に必要なスキルを持つ人材をピンポイントで確保できます。
  • 成果に基づいた公正な評価: 担当する仕事の範囲や目標が明確なため、「何を達成すれば評価されるのか」が分かりやすく、従業員の納得感も得やすくなります。

導入のポイント(デメリット対策):

  • 既存制度との調整: 従来の正社員との給与体系や評価基準をどうするかなど、社内での丁寧なルール整備が必要です。
  • 職務記述書(ジョブディスクリプション)の作成: 担当する業務内容、責任範囲、必要なスキル、目標などを詳細に記した書類の作成が不可欠となります。

3-4. その他にもある多様な働き方

上記以外にも、以下のような制度を組み合わせることで、さらに働き方の柔軟性は高まります。

  • 時短勤務: 1日の労働時間を通常より短縮する制度。育児や介護と仕事の両立を支援します。
  • テレワーク(在宅勤務): 会社のオフィスではなく、自宅などで働くスタイル。通勤の負担がなくなり、遠隔地に住む優秀な人材の採用も可能になります。
  • フレックスタイム制: 一定の期間について定められた総労働時間の範囲内で、従業員が日々の始業・終業時刻を自由に決められる制度です。

第4回:知らないと損!国や県の助成金を活用しよう

内容: 柔軟な働き方の導入には、コストがかかるという懸念を払拭するため、活用できる助成金や補助金制度を具体的に紹介します。

これまでの連載で、柔軟な働き方を導入するメリットや、そのための具体的なステップをご紹介してきました。しかし、新しい制度を導入したり、設備投資をしたりするには、どうしてもコストがかかります。

「良いことだとは思うけれど、うちの会社にそんな余裕は…」

そうお考えの経営者の皆さま、ご安心ください。国や県、市では、企業の「働き方改革」を後押しするための、返済不要の「助成金」や「補助金」制度を多数用意しています。これらを賢く活用することで、コスト負担を大幅に軽減しながら、働きやすい職場づくりを進めることが可能です。今回は、その代表的な制度をご紹介します。

4-1. 働き方改革推進支援助成金(国)

まさに、中小企業の働き方改革を支援するための代表的な助成金です。 生産性を向上させながら、労働時間の短縮や年次有給休暇の取得促進に取り組む事業主を支援します。

こんな取り組みに使えます:

  • 労務管理担当者や従業員向けの研修
  • 就業規則の作成・変更(社会保険労務士など専門家への依頼費用)
  • 勤怠管理や業務効率化のためのソフトウェア、機器の導入・更新
  • 人材確保のための採用活動費用

ポイント:
この助成金にはいくつかのコースがあり、目的によって分かれています。 例えば、「労働時間短縮・年休促進支援コース」では、時間外労働の削減や休暇取得促進の取り組みが対象となります。

4-2. 特定求職者雇用開発助成金(国)

高齢者、母子家庭の母、父子家庭の父など、就職が特に困難な方をハローワーク等の紹介で継続して雇用する事業主に対して助成される制度です。

こんな場合に活用できます:

  • 60歳以上の高齢者や、子育て中のひとり親の方を新たに雇い入れる場合
  • 障がいのある方を雇用する場合

ポイント:
この助成金は、まさに柔軟な働き方を求めていることが多い層の雇用を直接支援するものです。 雇用形態はパートタイムのような短時間労働者でも対象となる場合があります。 人材確保と社会貢献を両立できる、非常に意義のある制度です。

4-3. 郡上市独自の支援制度

国や県の制度だけでなく、郡上市にも事業者を支援する独自の制度があります。 働き方改革に直接関連するものから、人材確保に繋がるものまで様々です。

  • 郡上市中小企業人材スキルアップ支援事業補助金: 市内の事業所が、従業員のスキルアップのために必要な資格や免許の取得を支援する場合、その経費の一部(受講料や受験料など)が補助されます。 従業員の能力開発は、生産性向上に直結します。
  • 郡上市新規学卒者等雇用促進奨励金: 学校を卒業した若者などを新たに正規雇用した事業者に対して、奨励金が交付されます。 若者の地元定着を促し、将来の担い手を確保するための制度です。

4-4. 助成金申請の「まずは相談」から

「うちの取り組みは、どの助成金に当てはまるんだろう?」 「申請書類の書き方が難しそう…」

そう感じたら、専門の窓口に相談するのが一番の近道です。一人で悩まず、ぜひ専門家の力を借りてください。

  • ハローワーク郡上(岐阜八幡公共職業安定所): 雇用に関する助成金の主要な相談窓口です。制度の詳細や申請手続きについて丁寧に教えてくれます。
  • 郡上市産業支援センター: 市内の中小企業や小規模事業者に向けた、様々なサポートを行っている身近な相談窓口です。 補助金申請のサポート経験が豊富なスタッフも在籍しています。
  • 郡上市商工会: 地域の事業者に最も身近な相談相手の一つです。経営に関する様々な相談に応じてくれます。
  • 社会保険労務士(社労士): 労働・社会保険に関する専門家であり、助成金の申請代行なども行っています。

【ご注意ください】
助成金・補助金の内容や申請期間は、年度によって変更される場合があります。申請を検討する際は、必ず各制度の公式ホームページで最新の情報を確認するか、相談窓口にお問い合わせください。


第5回:導入成功へのロードマップとQ&A

内容: 実際に導入を進めるためのステップを整理し、経営者が抱きがちな疑問や不安に答えるQ&Aコーナーを設けます。

これまで4回にわたり、郡上市内の企業が「柔軟な働き方」を導入するためのヒントをお届けしてきました。最終回となる今回は、実際に導入を進めるための具体的なステップと、経営者の皆さまが抱きがちな疑問にお答えしていきます。

5-1. 成功に導くための「導入4ステップ」

思いつきで始めてしまうと、社内に混乱を招くだけでなく、失敗に終わってしまう可能性があります。以下の4つのステップに沿って、着実に進めていきましょう。

ステップ①【現状分析】:まずは自社を知ることから
何のために働き方を変えるのか、目的を明確にすることが全てのスタートです。

  • 課題の洗い出し:「特定の職種で応募が来ない」「若手の離職率が高い」など、今抱えている課題を書き出してみましょう。
  • 業務の見える化: 第2回で解説したように、誰がどんな仕事をしているのかを洗い出し、「属人化」している業務がないかチェックします。
  • 従業員の声を聞く: 簡単なアンケートや個人面談で、「働き方について困っていることはないか」「どんな制度があったら嬉しいか」といった現場の声に耳を傾けてみましょう。

ステップ②【制度設計】:自社に合ったオリジナルルールを作る
他社の真似をするのではなく、自社の課題や従業員のニーズに合った制度を考えることが成功の鍵です。

  • 働き方の選択: 第3回で紹介したワークシェアリングや在宅勤務などを参考に、自社の業務内容に合った制度を選びます。
  • ルール作り:「誰が対象か」「労働時間や給与はどうするか」「評価はどう行うか」「情報共有はどうするか」など、具体的な運用ルールを決めます。必要に応じて、就業規則の変更も検討しましょう。

ステップ③【社内周知】:丁寧な説明で「納得感」を醸成する
新しい制度を導入する際は、全従業員への丁寧な説明が不可欠です。

  • 目的の共有: なぜこの制度を導入するのか、その背景(人手不足の解消など)と、会社全体のメリット(生産性向上、持続的な成長)をしっかりと伝えます。
  • 公平性の担保: 特定の従業員だけが優遇されている、といった不公平感が生まれないよう、制度の目的やルールを全従業員にオープンに説明し、質疑応答の時間を設けて懸念や不安を解消しましょう。

ステップ④【試行と改善】:スモールスタートで育てていく
最初から完璧な制度を目指す必要はありません。まずは小さく試してみて、改善を重ねていくことが成功への近道です。

  • 限定的に試す: まずは特定の部署やチーム、1ヶ月といった期間を区切って試験的に導入します(トライアル)。
  • フィードバックの収集: 試行期間中に「運用してみてどうだったか」「やりにくい点はなかったか」などを利用者や周囲の従業員からヒアリングします。
  • 改善と本格導入: 集まった意見をもとにルールを改善し、全社への本格導入へと進めていきます。

5-2. 経営者のためのQ&Aコーナー

最後に、経営者の皆さまからよく寄せられる質問にお答えします。

Q1. 既存の正社員から「不公平だ」という不満は出ませんか?

A1. 最も重要なご懸念点です。 不満の根源にある「不公平感」を生まないために、2つのポイントがあります。

  • 丁寧な説明と目的の共有: ステップ③でも触れた通り、「なぜ今、柔軟な働き方が必要なのか」を全従業員にしっかり伝えることが重要です。「これは会社が生き残るために必要な変革であり、結果的に皆さんの雇用を守ることにつながる」というメッセージを共有し、納得感を得ましょう。
  • 評価基準の見直し: 「長く働いている人が偉い」という時間ベースの評価から、「決められた役割や目標を達成したか」という成果ベースの評価へ移行することを検討しましょう。短時間勤務者とフルタイム勤務者の役割分担を明確にし、それぞれの貢献度を正当に評価する仕組みが、不公平感をなくします。

Q2. うちのような小さな会社でも、本当に導入できますか?

A2. むしろ、小さな会社だからこそ導入しやすいと言えます。

大企業と違い、経営者の判断でスピーディーに意思決定ができ、社員一人ひとりの顔が見えるため、コミュニケーションも取りやすいのが中小企業の強みです。大げさな制度でなくても、「子どもの学校行事がある日は、2時間だけ中抜けOK」「週に1日だけ、自宅での作業を認める」といった、自社にできる範囲の小さなルールから始めてみてください。その小さな一歩が、大きな変化につながります。

Q3. 何から手をつければ良いか、やっぱり分かりません。

A3. 迷ったら、以下の3つのうち、できそうなことから始めてみてください。

  1. この記事(連載)をもう一度読み返す: まずは全体像をもう一度つかんでみましょう。
  2. 一人の従業員に、仕事内容を書き出してもらう: 第2回で紹介した「業務の見える化」の第一歩です。「昨日1日でやった仕事を、順番に書き出してみて」とお願いすることから始めてみませんか。
  3. 相談窓口に電話してみる: 第4回でご紹介したハローワークや郡上市産業支援センター、商工会に「働き方を変えたいと思っているんだけど…」と一本電話をかけてみてください。専門家が、あなたの会社の課題整理から一緒に手伝ってくれます。一人で抱え込まないことが、何よりも大切です。

5回にわたる連載は、今回で終了です。柔軟な働き方の導入は、一朝一夕に成し遂げられるものではありません。しかし、会社の未来、そして郡上の未来のために、今こそ踏み出すべき一歩です。この連載が、皆さまの挑戦のきっかけとなれば幸いです。